横浜地裁川崎支部判決のご報告

所長弁護士からパワハラを受け無償で労務を提供していた勤務弁護士が未払賃金と慰謝料の支払を求め反訴提起した事件で、業務委託料300万円と慰謝料200万円を認める判決

当事務所の代表弁護士である髙木亮二が、伊藤諭弁護士(弁護士法人ASK市役所通り法律事務所)とともに訴訟代理人として関与している訴訟事件について、本日(令和3年4月27日)、横浜地方裁判所川崎支部にて、請求の一部を認容する判決の言い渡しがありましたのでご報告します。

事案の概要

A弁護士(依頼者。以下単に「Aさん」といいます。)は、B弁護士の経営する法律事務所(後に法人化。)に所属する勤務弁護士でしたが、数年にわたって労働の対価を得ておらず、B弁護士からパワハラも受けていました。そこで、退職後にB弁護士及びB弁護士法人(以下「B弁護士ら」といいます。)に対し、私たち代理人を通じて未払賃金等の支払いを求める交渉をしたところ、逆にB弁護士らが、横浜地方裁判所川崎支部に対し、Aさんを被告として、債務不存在確認と慰謝料の支払いを求めて本訴を提起してきました。そのためやむなくAさんも、B弁護士らを反訴被告として、未払賃金と慰謝料の支払いを求め反訴を提起した事案です。

本件は、B弁護士側から訴訟中に提出された証拠が偽造されたものかどうか、なども問題になる特殊な事案でしたが、主要な争点は、パワハラの有無と、Aさんの労働者性でした。

判決の内容

結論

B弁護士らの請求は全部棄却。
Aさんの請求のうち、無償で労働した分の対価として300万円、パワハラに基づく損害賠償として220万円の支払いを認めました。

Aさんによる違法行為の有無

B弁護士らは、Aさん在籍中の事件処理の「違法性」を根拠に損害賠償請求を求めておりました。
Aさん側は、これらの違法性を否定するとともに、一部の証拠が捏造されたものと主張していました。
本判決においては、B弁護士らの請求は全部否定されました。
そのうち、B弁護士らから請求の根拠として提出された証拠の一部について「加工して作出された疑念が払拭でき」ないと評価されたものもありました。

無償労働の対価について

Aさんは約4年3か月(※1)、B弁護士の事務所で勤務していましたが、入所2年目の途中から、退職に至るまで、給料が1円も支払われませんでした。
Aさんは、本件における状況下においては労働者性を有するとして未払賃金の主張(勤務弁護士一般が労働者に当たるというものではありません。)を主位的にしておりましたが、B弁護士側は、「無報酬の合意」の存在を理由にこれを争っていました。
本判決は、Aさんの労働者性を否定しつつも、無報酬の合意の存在を認めず、相当な業務委託料として300万円の支払いを認めました。
※1 当初「約5年間」と記載しておりましたが、「約4年3か月」と訂正しました。

パワハラについて

勤務弁護士がいわゆる「ボス弁」から受けたパワハラを理由に慰謝料請求をしておりました。
Aさんの主張したB弁護士によるパワハラの事実は多岐にわたりますが、本判決においては、次の行為(一部抜粋)を認定しました。

  • Aさんのミスを叱責するに際し、胸ぐら部分を少なくとも5秒以上掴み、「嘘つきやろうが」「おめえふざけんじゃねえぞ」と大声を出しながら、背後のロッカーに叩きつけ、土下座するよう非常に強い口調で命じた。
  • 叱責において「てめえなんか無資格者にしてやるぞコラ」「てめえの人生奪うことができるぞオラ。懲戒請求で。ここにある始末書全部出すぞ。(略)協力者全部仰ぐぞ。」などと怒号を交えて執拗に叱責をし続けた。
  • Aさんの人格を否定するような侮辱的な行動をとったり、Aさんの人格・能力を否定するような呼称を含むメール送信をした。
  • Aさんを精神的疾病と決めつけるような行動をした。

他にも業務内容の報告等について過大な要求をしたり、私生活に不必要に介入したことなどもパワハラとして認定しました。

その結果、同種事案としては比較的高額である220万円(弁護士費用を含む)の損害賠償を認めました。

本判決の意義

労働者性が否定されたことは残念でしたが、弁護士が行った無償の業務に対して、一定の金員の支払いを認めた点は意義があると考えられます。
また、本訴訟は、ボス弁が退職した元勤務弁護士に対して先行して損害賠償請求をするという極めて特異なものでした。
弁護士が当事者となるパワハラ訴訟は、同種事案もほとんどないと思われます。客観証拠に乏しい中、法律事務所といういわばプロ同士が同席する密室空間の中で生じた極めて異様な人間関係を、裁判所なりに認定していただき、ハラスメント行為の違法性について一定の評価をしてもらえたものと考えております。

地裁の審理を振り返って

なお、本訴訟係属中、ある時期を境に、B弁護士から提出される証拠のうち明らかに偽造されたとしか思えないものが散見されるようになりました。仮に弁護士によって偽造証拠が提出されたのであれば、公正な裁判に対する重大な挑戦と言わざるを得ず、こうした主張に多大な労力を割く結果となりました。
また、訴訟係属中、Aさんに対して、これまで1件もなかった元依頼者から10件以上も懲戒請求がなされ、その対応に苦慮する事態になりました。いずれも、神奈川県弁護士会綱紀委員会において懲戒を求めないとの議決で終了しております。なお、これら懲戒請求との関連性は不明ですが、AさんはB弁護士から、懲戒請求で人生を奪うぞと言われておりました。

私たちにとっても100%納得のできる判決ではなく、控訴を検討することになりますが、5年に及ぶ裁判にひとつの区切りが付けられたことは感慨深いことです。
今後ともご支援をよろしくお願い申し上げます。

令和3年4月27日

弁護士 髙木亮二
弁護士 伊藤 諭

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